イベントレポート

S・Cのイベント体験レポート。会場で見つけたトピックをお伝えします。

update 2016/11/1

「争いのない王国 2015」©Agneta Flock

スウェーデンの切り絵作家、アグネータ・フロックさん。
北欧の豊かな自然や伝統的な物語…だけではない、さまざまなコトやモノに
インスパイアされて生み出される独創的でファンタジーいっぱいの彼女の世界には、
癒しや安らぎ、自由やワクワク・・・あらゆる幸福感があふれています。
使うのは紙とはさみと絵の具だけ。
彼女の手から魔法のように紡がれるやさしい作品の世界へと、
ギャラリートークで会場を訪れたアグネータさんご本人のコトバを羅針盤に、
あなたも足を踏み入れてみませんか?
それは、“色”のもつイメージを使った、素敵な仕掛けのある展覧会でした――

アグネータ・フロック

1941年、スウェーデン・イェテボリー生まれ。1965年、スウェーデン
国立芸術工芸デザイン大学コンストファック、テキスタイル科卒業。
40年以上テキスタイル作家として活動した後、切り絵作品の制作を本
格的に始める。2004年にNHK「おしゃれ工房」に登場。さらに同テキス
ト目次に2年間にわたり作品を連載するなど幅広く活躍。 2011年、NHKBS
プレミアムで「ハイビジョン特集アグネータと魔法の切り絵」が放送され、大きな反響を呼んだ。

覧会のスタートは、ファンタジーの世界を題材にした作品たちが飾られた緑色のお部屋。葉っぱや咲き乱れる花々などの作品を前に、「コンニチハ」。アグネータさんが登場し、ギャラリートークが始まりました。

そのお部屋でとりわけ印象的な、薔薇の花。可愛らしく切り抜かれ、少し墨を落としたような赤やピンクで彩色された薔薇たちは、どうやらただのモチーフというわけではないようです。すると、すかさず「薔薇は愛情のシンボルなんですよ」と、アグネータさん。

愛をささやき合う男性と女性の間に薔薇の花。キツネのレストランでお食事をするネコのテーブルにも薔薇が一輪。ついには、薔薇が人のように目や鼻、口を持ち、自ら愛をささやくのです。

ストックホルム郊外にあるアグネータさんのご自宅のお庭では、初夏になるとそこかしこで野生の薔薇が花を咲かせるのだとか。北欧の短い夏を謳歌するかのように咲き競う薔薇の美しさ、力強さもまた、彼女の感性を刺激するのでしょう。

赤い綿毛みたいな御髪が素敵なアグネータさんは、まるで作品から抜け出てきた登場人物のよう。実際、時折、彼女は作品に登場します。それはまた後ほど♪

父さまの仕事の関係で、4歳からの3年を家族とともにアフリカのエチオピアで過ごしたというアグネータさん。オレンジ色のお部屋には、そのときの思い出を描いた作品が飾られていました。

彼女が切り出したワニや象、シマウマなどの野生生物たちのモチーフは、これまでに知るアフリカンアートに比べると穏やかで、どこか北欧の気配が漂います。 しかし、北欧にはない躍動感と生命力、ジリジリと肌を焦がす強烈なお日さまの光と熱。そこから生まれる原色の世界は幼かったアグネータさんに強烈な記憶を残し、彼女の色彩感覚に大きな影響を与えたといいます。

さて、今さらですが、切り絵であるアグネータさんの作品は輪郭こそ単純化されているものの、実際にはとても繊細で緻密な仕事が施されています。デザインを加えて切り抜かれた額縁部分や複雑に交差する枝葉、あるいは編み目で表現された波紋などの多くはまるで一筆書きのように、切り離されることなくはさみが入れられているのです。オレンジ色のお部屋に飾られたシマウマやワニの群れも・・・わ、つながってる!

し落ち着いた藍色の壁のこのお部屋には、イソップ童話「アリとキリギリス」などの寓話や教会絵画、昔話などをモチーフにした作品が集められていました。

まず気になったのは、それら欧米の作品にまざって飾られていた「万葉集」を題材にした作品群。

そもそも、日本とアグネータさんのつながりには、こんな経緯がありました。

―― アフリカに続き、やはりお父さまの仕事でタイへと移り住んだアグネータさん一家は、そこで「タカギさん」という日本人ファミリーと知り合います。13歳の多感な時期を迎えていた彼女は、タカギ家のお子さんたちとの遊びを通して、初めて日本文化に触れたのだそうです。
長じてテキスタイル作家となり、日本ならではの染めや織に興味を持つようになったのは、ごく自然の流れだったのかもしれません ――

現存する最古の和歌集、「万葉集」。日本ならではの四季の移ろいを美しく詠み込んだ万葉びとの歌は、鮮やかな色彩となってアグネータさんの目に映ったことでしょう。
月草(つゆくさ)の“青”、唐人の衣に使われる高貴な色、“紫”など、題材として取り上げた歌には、染めやテキスタイルにまつわるものが多くみられました。

そして、もう一つ。このお部屋には、赤い綿毛みたいな髪の女性をモデルにした作品がたくさんありました。そう、先ほど予告した、アグネータさん自身が登場するセルフポートレイト作品です。
「現実では叶わないことも、切り絵なら簡単に叶うから」と、彼女はいいます。
華麗に綱渡りを披露したり、ユニコーンにまたがって思考の世界を飛び回ったり。


困難なことも空想の中で体験すれば、何がしかのヒントが見つかるかもしれない・・・そんな勇気がもらえる不思議な不思議な世界観です。

イボリーのお部屋は、糸と草木染めで紡がれた織と布の世界。主にタペストリー作品が、どっしりとした重量感をもって飾られていました。

テキスタイル作家でキャリアをスタートしたアグネータさん。作家としての原点は、この染め・織にあります。中でも、お部屋の入口正面奥に飾られたひときわ大きな作品「心と手は沈黙の中で創造する」は、圧倒的な迫力で見る者を惹きつけます。

「心と手は沈黙の中で創造する 1981」©Agneta Flock

描かれるのは、子を産み育て、黙々と畑を耕す女性たちの姿。欲ももたず、沈黙の中で働いてきた女性たちへのオマージュが込められた作品は、どこか荘厳さを感じさせます。空にピンク色を使ったのは、「未来の明るさを表現したかったから」だそう。

原毛をカーディングして糸を紡いで染色するところからスタートし、全工程を一人で行うアグネータさんの織の仕事。この作品は、完成までに2年の歳月を要したといいます。
即興的な切り絵と長い月日をかけて制作する染めと織。制作のプロセスや時間、素材は異なりますが、「どちらも大好き」だというアグネータさんの笑顔は作品たちに似て、とても温かでした。

後はアグネータさんのご自宅を再現したお部屋。

窓辺を飾る切り絵のオブジェやプレゼントした手袋など、手作りの温もりがあふれています。その温かさがあればこそ、北欧の長くて厳しい冬を超えることができるのでしょう。

冬を楽しむために生まれたあったかい作品の数々に、ポッとココロに火が灯り、今年の冬は何か手作りに挑戦してみようかな・・・そんな気分になりました。

ギャラリートークでアグネータさんのイマジネーションの出発点をお聞きしてみると、生来の才能以外に、いくつものターニングポイントがあったことがわかります。幼少の頃のアフリカ・タイでの経験や、そこでのさまざまな出会いなど。
それらはまた、子どもの感性を大切にしていたというお父さまの考え方に導かれたとも読み解けます。

9歳の頃(!!)、パリの有名ファッションメゾンに宛て、デザイン画とお手紙を送ったときには、彼女の文章を、お父さまがフランス語に訳してあげたそうです。
いろいろなものを見、聞き、体験し、さらに想像することは、人生にたくさんの実りの“可能性”をもたらすのかもしれません。

この日、アグネータさんが着用していたお洋服はご自身で染め上げたお手製なのだとか。日本の絣に似た文様の濃い藍色のお洋服に赤い綿毛のような髪が映え、その姿とやさしい作品たちとがリンクして、ココロの目の奥に鮮やかに焼き付けられました。

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