カルチャーのある暮らし

普段の暮らしの中にある、本や音楽やアートそしてこだわりのインテリアなど、
カルチャーから広がるライフスタイルをご紹介するこのコーナー。
初回のゲストはインテリアブランドIDÉEの大島 忠智さん。
最近はまっている北欧家具を中心にこだわりのある暮らしについてお話を伺いました。

Person 1
大島タダトモ
IDÉE

-大島さんは世界各国のさまざまな場所に買い付けに行かれると思いますが、その中でお店で取り扱う商品とは別に、ご自宅に置かれるものというのはどのようにセレクトされているのでしょうか?

大島 機能的なものと飾るものは選び方が異なるように思います。もちろんまずは自分がいいなと思うもの、というのが基準の一つではありますが、その中から食器のような機能的なものの場合は、すでに持っているものとの調和を考えて選ぶことが多いです。飾るものに関しては、飾るスペースをなんとなく想像しますが、余程大きくない限りは直感でいいなと思えば購入します。実際に自分で手に入れて家で飾ったり、使ってみることで、その魅力を改めて確認する作業を行うこともあります。

-好きだなと思うものに共通点はありますか?

大島 買う前に自分が好きなものについて考えることはあまりありません。どちらかというと本能的に買って来たと思います。改めて並べて引いて見たときにどこか共通しているところがあるなと気付くことはありますが。その意味で言うと、シリアスなものよりも、見たときに心が和んだり、少しクスッと笑えたりチャーミングな要素があったりするものが、個人的な嗜好としてあると思いますね。有名か無名か、高いか安いか、そういう基準はあまりなくて、好きなデザイナーものでもピンとこなければ買いませんし、アノニマスなものでも自分の感情に響くものであれば手に入れてしまいます。

-その中でもご自身で特別に思い入れがあるものや、気がついたらよく買っている作家のものなどはありますか?

大島 1点でも気になりだすともっと作品を知りたくなります。例えば、ここにある Erik Hoglund(エリック・ホグラン)のガラス作品は、最初に惹かれて1個買ったのですが、作家に興味が湧いて買い集めてしまいました。家具も、最近はずっとフィンランドのビンテージを集めています。北欧の家具がもともと好きでしたし、日本の住環境にはまるものが多いんです。アメリカの家具のように、大ぶりな家具というよりかは、北欧はコンパクトなデザインの家具も多く、作りも良いので、経年変化を楽しみながら末永く使うことができます。

-北欧の家具のなかでも好きな国はありますか?

大島 ここ数年はフィンランドの家具にどっぷりはまっています。北欧の家具というと、代表的なのが、デンマークで作られている、Hans J.Wegner(ハンス・J・ウェグナー)だったり、Finn Juhl(フィンユール)などのデザイナーズ家具。デンマークの家具は洗練されていますね。すごく曲線が美しかったり、贅沢に素材を使っていたり、繊細な仕上げをしていたりします。それに対してAlvar Aalto(アルヴァアアルト)やIlmari Tapiovaara(イルマリ・タピオヴァラ)などのフィンランドのデザイナーの家具は、どこか洗練されすぎていないというか、デザインに余白がある感じで、すごく好きです。すこし不自由ですが、当時のライフスタイルを感じるように、実際に使いながら暮らしています。いま自宅にある家具はすべてフィンランドのものです。実は僕は5年くらい前までは、デンマークの家具を揃えていたのですが、一気に変えました。

-特に気に入っている家具はありますか?

大島 北欧は冬が長く、夜が長いですよね、だから優れた照明のブランドやデザイナーなどが多い気がします。その中で、フィンランドのランプはエレガントな印象がありますね。うちにある照明は、1930年代~ 1950年代に作られた真鍮製のものが多いのですが、真鍮が出す経年の変化で、ぬくもりがあるんです。例えばこういうランプを点けると、穴が開いていて、そこから光が漏れるようなデザインなど、派手なデザインではないのですが、意匠に工夫がされているところに惹かれています。

-ただ家具を造形的に見るのではなく、現地の暮らしを想像しながらセレクトされているのが面白いですね。家具や壁面のレイアウトはどのように決めていらっしゃるのでしょうか?

大島 感覚的にやっているので説明するのがすごく難しいです(笑)。プロのコーディネーターから見たら、ルールと違うと言われるのではないかと思いますが、一番わかりやすいのは、色でわけることでしょうか。たとえば現代の作家がつくった陶器から、歴史的な家具、どこかの国で拾ったものまで、いろいろなものがあるのですが、それらを色別に集めてみるとなんとなく統一感がでます。あとは中央は高くして、三角にしたほうが綺麗に見えるとか、そういうことをなんとなく意識はしますね、でも、それよりも、色々と配置を試してみて、自分にとって、これはバランスがいいなと思えれば、それでOKとしています。

-大島さんにとって、機能性のあるものだけではなく、アートや文化的なモノを生活空間に置くことの意味や良さはなんでしょうか?

大島 もちろんモノとして美しいな、とか、家で常に見ていたな、と思って手に入れるのですが、それに加えて買った時のことを思い出すことが多いです。これって確かメキシコの村でおじいちゃんが一生懸命作っていて、完成までに二週間かかるって言っていたよなとか、見るたびに思い出します。そこで、やっぱり、これっていいよなと思うんですよ。そのモノ自体もすごくいいのですが、その裏にあるストーリーを思い出して、「ものづくり」の良さを改めて感じ、その良さを大切にしていきたいと。その瞬間に自分自身も豊かになれる気がします。そういうものを見ながら、コーヒーを飲んだりして、それを思い出すだけで、またあそこに行ってみたいなとか、明日も仕事頑張ろうと思えるんです。

-そのモノにあるストーリーや思想を、自分の中でもう一度思い描くために家の中に取り入れるんですね。

大島 そうですね。それによってアイデアが生まれたりだとか、新しい感覚が生まれることが、文化を感じるものやアートを家に飾っている一つの大切な理由です。日本人って、アートというとピカソとかゴッホを思いうかべて、気遅れてしてしまう部分がありますよね。美術の授業でもそういうことを学ぶことが中心なので仕方ないのですが、もっと身近なものってたくさんあるので、気軽に楽しんでみることも良いと思います。
 コロナでリモートワークが中心になって、IDÉEのお客さんでもオンラインでアート作品が好調です。zoomなどで背景が見えるので、アートをお部屋に飾りたいという方が増えているそうです(笑)。本人がいいと思えば、ポストカードを額装して飾っても、その人にとってはアートですよね。実際に手で描かれたものの方がいいかもしれませんが、最初はそういうものでもいいので、飾ってみることをおすすめします。IDÉEからも、アートがもう少し気軽に楽しめるものとして、世の中に伝えていけたらいいなと思います。

IDÉE
大島忠智
Tadatomo Oshima
インテリアブランド「IDÉE」ディレクター。インタビューWebマガジン"LIFECYCLING interview & photo"の企画運営を行う。また、音楽レーベル"IDÉE Records"を主宰し、CDのプロデュースからDJ、執筆、USEN放送<IDÉE Records Channel I-36>の選曲・監修などを行っている。
Instgram - @oshima_tadatomo