SETAGAYA ART TRIP

世田谷を歩く

by 草野庸子

東京・世田谷区にあるカルチャースポットや、二子玉川に縁のある
文化人やアーティストを紹介する「SETAGAYA Art Trip 」。
今回は、写真家として活躍する草野庸子さんによる企画。

長らく世田谷区に住んでいる彼女が、よく行くスポット、
空気や雰囲気が良いと感じる場所に足を運び、本企画のために写真を撮り下ろし。
ここでしか見ることのできない貴重な作品に自身の言葉を添えて、
世田谷という場所が彼女にとってどのような意味を持つのかを表現してくれました。
連続する日常の瞬間に思いを馳せながら、二度と来ない時間を想いながら。
彼女が捉えた世田谷は、どんな景色なのでしょうか。

世田谷を歩く 草野庸子

今年の冬はなんだか
気持ちの良い天気が多い。
未曾有の大混乱に陥っているといっても、
決して大袈裟では無い2020年。

今年はよく歩いたな、と思う。
電車に乗るのもあまり気が進まないし、
自宅のある世田谷付近を
ただただ歩いた記憶がある。

私は外を歩くという行為が好きだ。
音楽を聴きながら歩いていると、
街のなかに溶け込む感覚になるし、
道で色々なものを見つけることができる。
家が解体されたあと、
しばらく放置されたスペースには
あっという間に植物が生える。
ビニールの隙間から
陽を求めるように高く、上へと。

大きなイチョウの木は風に揺られると
生き物のような音を立てる。
生きている化石と
言われているのも頷ける。

そういえば幼い頃、
母親に自宅の庭に枇杷の木を植えると
不幸なことが起こる、
と言われたことを思い出す。
前後の会話はあまり覚えていないが、
その話を聞いたときに受けた衝撃は、
今でも私の身体に走った
ジメッとした感覚として染み付いている。

天気が良いと二子玉川沿いも
駒沢公園、世田谷公園も面白いほど
多くの人が集まってくる。
太陽に誘われて自然の中に
向かう人々をみると、
機械的なこの都会の生活の中でも、
人間に残る動物的な
部分が見えるようで嬉しくなる。

いい景色をみたり、
お気に入りの店でたまに贅沢をしたり。
そんな自分の選んだものたちは
葉脈のように広がって、
自分の中に
形を成していく。
光にあたることによってできる影で
自身の存在を認識するように。

写真家

草野庸子

YOKO KUSANO

1993年、福島県生まれ。桑沢デザイン研究所でグラフィックデザインを専攻し、在学中にプライベートで撮りためて応募した写真で、2014年にキヤノン写真新世紀優秀賞(佐内正史選)に選出される。以後、写真家の道を歩み始め、現在ではファッションやカルチャー誌をはじめとする数々のメディアで活動している。2017年に、『EVERYTHING IS TEMPORARY(すべてが一時的なものです)』を刊行。2020年11月には、映画「泣く子はいねえが」の公開にあたって下北沢にて劇中撮影した写真の展示を開催した。

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