「あの人に読んでもらいたい1冊」としてブックディレクター幅允考さんが
『音と芸術』の選書から1冊をセレクト。
ご指名を受けたお相手が綴った感想文をお届けします。
1冊の読書の感想をきっかけに広がる新しいライフスタイルや考え方をお楽しみください。
今回は、「たちばな書店」を営み、日々本に触れる読書家の顔を持つEXILEのパフォーマー橘ケンチさんが、
ウォーキング・ミュージックの観点でファッション・ショーを構造分析する
菊地成孔さんの批評書『服は何故音楽を必要とするのか?』の感想を綴ります。
読んでいただいた本
『服は何故音楽を必要とするのか?
「ウォーキング・ミュージック」という
存在しないジャンルに召還された
音楽たちについての考察』
河出文庫/2012年
※上記書籍は2021年9月1日〜11月30日までの期間、
本館1F GRAND PATIOでご覧いただけます。
文
こう見えて、服飾デザイナーになりたいと思っていた時期があった。
中学生の頃、毎週月曜日に放送されていたファッション通信を欠かさずチェックし、ファッション・ショーで見たこともない洋服を身に纏い、ランウェイを歩くモデルの姿に憧れ、その世界を夢見ていた。
その後、目指す方向は変わってダンサーとなり、今はEXILEというグループで活動しているが、ファッション・ショーに対する憧れはまだ心の奥底に眠っていたようだ。
『服は何故音楽を必要とするのか?』を読みながら、あの時の気持ちが蘇ってきた。
エロティックな抑圧を構造化したものがファッション・ショーであるという菊地さんの提案はとても興味深い。
流れる音楽に決してノらずに、無表情で歩くモデル達は常に抑圧された状態にあり、その反動がクラブでのモデル達の解放を後押しする。
洋服と音楽をクロスオーバーさせるためにモデルに課せられたハードルは人間的な営みとは少しずれているのかもしれない。
音楽があればそこに身を委ねたくなるのが人間の性だと思う。
職業柄というのもあるが、少なくとも自分はそういう人間だ。
個人的には音楽のジャンルによって生まれる感情も変わり、音の捉え方も変わると思っている。
自分の中に生まれたものをいかに色濃く表現できるかが、アーティストとしての真骨頂だと思っているが、ファッション・ショーの世界とはいささか様相が異なるのだろう。
シック、エレガンス、スタイリッシュという概念を目指すからこそ、ファッションには自由もあれば規制もある。
その境界線を己の感覚で切り開いてきたデザイナー、音楽家達の音楽の捉え方は決して一言で言い表せるものではないが、本書でその一端に触れてみることで、人間の感覚に限りはないということを感じてもらえるのではないだろうか。
橘 ケンチ
神奈川県生まれ。2009年にEXILEのパフォーマーとして加入し、EXILE THE SECONDのリーダー兼パフォーマーとしても活躍。アジアを含む世界へ向けたLDHのエンタテインメントの構築も担う。2017年6月に「たちばな書店」 を始動。本の紹介サイト、ブックフェアなどを開催。ライフワークである日本酒では全国の酒蔵巡りを行うほか、メディアを通してその魅力を発信している。