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わたしだけの小宇宙

人の好みは千差万別ですが、趣味趣向が最も顕れる場所は、その人の来歴が色濃く反映された自宅かもしれません。
インテリア誌の表紙を飾るようなミニマルで美しい自宅や部屋も素敵ですが、
自分にとって理想的な空間とは「好きなものだけに囲まれた空間」という方も多いと聞きます。
他人から見ると混沌としているように見えても、住まう人にとっては自分のアイデンティティを形成する小宇宙。
高価なハイアートを飾る人もいれば、値の付かぬガラクタの蒐集に命を懸けることだって
立派な誰かの世界創造です。人の熱を帯びた痕跡に格差はなく、真に純粋な世界がひたすら広がっているのです。

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ここで働く人は皆プロフェッサーである。知っている人をあてにするな。(P3)
『THE RECORD STORE BOOK』
Mike Spitz (写真)、
Rebecca Villaneda(文)
Rare Bird Books/2015年

著者で写真家のマイク・スピッツは、ロサンゼルスにある個性的なレコードショップの店主と店内の写真を撮り溜めて1冊の本にまとめました。紹介されているのはちょっと小汚くて偏った品揃えのショップばかりで個人店ならではの魅力に満ちあふれています。店主の「好きなものだけ」が色濃く感じられる店内は、まるで自宅のようでもあります。

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人間の記憶の座が、未来にどのような形態をとるのかは想像ができないが、たやすく本に代わるものが現れるとは、とても考えられない。(P195)
『本の景色』
潮田登久子
ウシマオダ/2017年

本と本の置かれている環境を主題にした潮田登久子による写真集“本の景色”シリーズ第3弾。国立国会図書館や大学図書館に収蔵されている貴重な古典籍や洋書の姿を捉えた写真集。朽ちかけた本は歴史の重みをたたえており、凄みすら感じさせます。

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We human beings are, by our sheer nature, transient.(P64)
『VAN LIFE
YOUR HOME ON THE ROAD』
FOSTER HUNTINGTON
Black Dog & Leventhal Pub/2017年

ニューヨーク・マンハッタンで有名なアパレル企業や出版社で働いていたフォスター・ハンティントンは、毎日の忙しい日々に疑問を持ち、ニューヨークでの生活と家を捨てて旅することを決意しました。VANに必要最低限の荷物を載せて、アメリカ中を車で移動する「VAN LIFE」の始まりです。家賃の高い家を手放し、車で移動しながら住む。これも新しい生活様式のひとつの形かもしれません。

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「人生と仕事の適切なバランス」を見出して「どちらか一方に他方を支配させていない」ことに彼は気が付いた。そんなバランスが自分も欲しくなり、それを実現できる家を建てようと決心。(P71)
『Cabin Porn Inside 小屋のなかへ』
ザック・クライン
グラフィック社/2019年

編集者のザック・クラインが立ち上げた小屋の写真を投稿するオンラインコミュニティ「Cabin Porn」。2万軒以上の投稿写真の中から厳選された85軒を収録。小屋の暮らしというと、現実社会から離れた世捨て人の暮らしをイメージしてしまいますが、現代の小屋暮らしは自然に囲まれながら、とても都会的な生活をしています。都会暮らしをしていると、なににも支配されない生き方を選択した小屋暮らしの人々を羨ましく思ってしまいます。

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不便や不自由は、本来人間の持っている「生活の知恵」を呼び覚まし、「創意と工夫」を生み出す原動力かもしれません。(P4)
『食う寝る遊ぶ 小屋暮らし』
中村好文
PHPエディターズ・グループ/2013年

住宅建築の名手・中村好文が長野県の浅間山の麓に、自ら設計して建てた「小屋」で営まれる暮らしのエッセイ。この小屋では、電気・上下水道・ガスなどの誰もが当たり前に享受しているエネルギーを自給自足し、あえて不便な生活を取り入れています。不便と不自由を体験することで、人間が本来持っている生きるための知恵、生活の知恵が呼び覚まされると氏は言います。合理化と利便性を追い求める世界の逆をいく発想が、これからの私たちの世界には必要になってくるのかもしれません。

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蒐集は心理的には興味であり、生理的には性癖である。これらが結び合う故、人間をた易く夢中にさせる。(P163)
『蒐集物語』
柳宗悦
中央公論新社/2014年

1920年代日本に徐々に浸透していた機械による大量生産品よりも、失われていく日本各地の「手仕事」に価値を見出した生活文化運動「民藝」の創始者・柳宗悦は、文芸雑誌『白樺』にて、当時知られていなかった西洋美術の動向を紹介するなど、確かな審美眼の持ち主としても知られています。ものを愛した稀代の蒐集家はどんな考えのもと蒐集をしていたのか。柳の蒐集品は現在、日本民藝館に収蔵されています。蒐集品がいつか美術館にコレクションされることがあるかと考えると、ますます物が捨てられなくなります。

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映画というものは、私の家のような気がします。(P108)
『私の映画の部屋』
淀川長治
文藝春秋/1985年

「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」のフレーズで有名な映画解説者の淀川長治。「日曜洋画劇場」の解説を務め、映画よりその解説が印象に残っている方も多いと思います。70年代にTBSラジオ「淀川長冶・私の映画の部屋」で放送された映画解説を、独特の語り口そのままに活字化しました。なにか映画が観たいと思ったら、パラリと頁をめくってみてください。

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「買った方がいいよ。部屋にアートがあるということはとても大事だから」(P334)
『VINTAGE POSTER SCRAP』
井出靖
Grand Gallery/2020年

音楽プロデューサーであり、セレクトショップ「Grand Gallery」のオーナーでもある井出靖が長年にわたり蒐集してきたヴィンテージポスターをまとめたスクラップブック。ポスターをただの紙だと思って侮ってはいけません。著名なアーティストやグラフィックデザイナー、写真家によるポスターは経年により評価が高まり、いつの日か立派なアートになり得ます。インテリアにアートが欲しいけれど、高価なアートは敷居が高いという貴方。そんな時はお気に入りのポスターを探して額装して飾るのがおすすめです。

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Are you tempted by a life afloat?(P3)
『ROCK THE BOAT』
Robert Klanten、Maximilian Funk
gestalten/2017年

多様な世界には人の数だけ多様な暮らし方があります。ただ、船上で暮らしている人々はそんなに多くないかもしれません。船に個性豊かな住居を積載し、自由気ままな生活を送るボートハウスの住人たち。船上なのに、まるで高級ホテルのような部屋もあれば、プール、お風呂、サウナなどなんでもあり。どこへでも移動可能なボートハウスは究極的な趣味の家ではないでしょうか。

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なにか、こう、もっと、雑然とした、その部屋の住人の個性が滲みでてしまったような部屋です。(P141)
『東京の仕事場』
平野太呂(写真・文)
マガジンハウス /2011年

さまざまな分野で活躍するクリエイターたちはどんな仕事場で働いているのでしょうか。積み上げられたスケートデッキ、使い勝手が良さそうなキッチン、膨大な数のレコードや本、描きかけのキャンバスや使い古された仕事道具...。個性が滲み出た仕事部屋は、部屋の住人の表情となんだか似たものを感じます。

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空間に作用するアートの効能(キャッチコピー)
『Candida Höfer
On Kawara Date Paintings in
Private Collections 』
Candida Höfer
Buchhandlung Walther König/2009年

ベッヒャー派を代表するドイツの写真家カンディダ・ヘーファーが、河原温とキュレーターのカスパー・ケーニヒから依頼され、2004年から2007年に個人所有されている河原温の代表作である「日付絵画(Today)」シリーズを世界各地で撮影。プライベート空間に溶け込んだ状態で作品を見ることができる貴重な内容になっています。河原温の作品集であるとともに、同じイメージを反復する写真技法タイポロジー(類型学)写真の作品集でもあり、多角的に愉しめる1冊です。へーファーの写真には人が一切写り込んでおらず、静謐な雰囲気をたたえています。

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〝本を読む場所〟という環境、空間を考えると、それは自然に自分にとっての居心地のいい場所、大切な場所を考えることにつながる。(P162)
『書庫を建てる 
1万冊の本を収める
狭小住宅プロジェクト』
松原隆一郎、堀部安嗣
新潮社/2014年

建築雑誌などで新築の住宅を目にする機会は多いですが、完成までに建築家と施主がどのように対話してきたのかはあまり表には出てきません。本書の著者である施主の要望はただ一つ、「1万冊の本を収める」こと。これに建築家・堀部安嗣はどう応えるのか。個人住宅が完成するまでのプロセスを追った1冊のドキュメントブックです。家一軒の設計をしたら一つの小説が書けると言う建築家の言葉どおり、濃密な物語が繰り広げられています。

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予定はない。昼間はソファに寝て...買い物もしない。テレビもないし、インターネットに感情的になることもない。(P15)
『the world of apartamento 』
Omar Sosa, Nacho Alegre, Marco Velardi
Abrams Books/2018年

スペイン発のインテリア雑誌『apartamento』創刊10周年を記念して書籍化された本書。世界各国の様々なクリエイターの暮らしを美しい誌面で紹介しています。登場するのは世界的なアーティストや映画監督、写真家など、一流のクリエイターたち。普段は見られないリラックスした表情は、家が居心地のいい場所であることを物語っています。

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「有機的混沌」によってコントロールされた空間は、汚いどころか謎めいた魅力さえ覚えさせることがある。(P22)
『TOKYO STYLE』
都築響一
筑摩書房/2003年

1993年に発表され、27年たった今でも色あせることない傑作写真集。編集者であり写真家の都築響一が、東京に住む若者のリアルな暮らしぶりに迫ったドキュメンタリーです。インテリア雑誌では絶対に取り上げられないような、ものが溢れる雑多な部屋に妙な居心地のよさを感じます。ロッカーの部屋にはギターとスキニーパンツがあり、DJの部屋には山のようなレコードやCDが堆積している。ステレオタイプな部屋の有り様も個性を反映しています。

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